ゲスト:山口智久氏(アディダス ジャパン株式会社)

■アディダスとフットボールの歴史

藤丸容一(以下、藤)本日はお越しいただきましてありがとうございます。よろしくお願いします。

山口智久(以下、山)よろしくお願いします。

フットボールプレーヤーにとってアディダスといえば誰もが知っているブランドなんですけど、僕のイメージではアディダスはフットボールシューズの歴史そのもの。トップブランドとして今でもずっと走り続けている、めちゃめちゃすごいなと、本当に素晴らしく思います。

ありがとうございます。

その歴史の中でもフットボールスパイクは、今まで斬新な革命を常に起こしてきた。最初にシューズにスタッドを付けたアディ・ダスラーさんは革新的だったと聞いていますし、そこからお馴染みの三本ラインも中足部をしっかりホールドするための機能としてデザインに落とし込まれたということも、初めは知らなかったんですけど、ゆくゆく知ることになりました。

アディダスブランド(アディダス)はフットボールを軸にしつつ全ての競技に共通していることなんですけど、創始者のアディ・ダスラーが掲げて今でも開発理念になっている『全てはアスリートの為に』というこの一つのメッセージに尽きる、という風に思っています。

モノづくりという部分で、アディ・ダスラーさんは創業者でありながら技術者としてスポーツをされている方をサポートしている。まさに、クラフトマンシップを感じます。

■日本での独自の取り組み、こだわり

ただ、世界と比べて日本はかなり環境が違いますよね。例えば、足の形や気候、グラウンドなど、いろいろ違うと思うんですけども、そういったところでアディダス ジャパンが行っている独自の取り組みやこだわりがあれば教えてください。

アディダスというブランドが世界規模のブランドである以上、グローバル展開、世界に通ずる大規模なコンセプトのコレクション、プロダクトというところが我々の強みであると思っています。

そうですね。

けど、一方ではやっぱり各地域に応じて商品に求めているニーズですとか、コンシューマー自体の特徴は様々違ってくる中で、日本にいる以上は日本人の事をしっかり考えた商品を作っていきたいというこだわりが、特に我々アディダス ジャパンの中にはあります。

なるほど。

もちろん、グローバルコンセプトとして一気通貫した強い軸は持ちつつ、日本はまだまだ土とか、最近増えてきている人工芝でのプレー環境というものが多くを占めるので、 ローカライズして日本人のためにアレンジをしたり、日本人に合った足型の『ジャパニーズマイクロフィットラスト』を開発したり、少しでもディテールにこだわって、日本から世界に通用するシューズを作っていくというところは特にこだわっている部分ではあります。

日本人に合ったということなんですけども、『ジャパニーズマイクロフィットラスト』とは具体的にどんな感じなんですか?

最新のフットボールプレーヤーの足型データに基づいて、足全体360°にわたって、立体的に日本人のリアルな足の形というものを反映させた足型(ラスト)で、主軸となるモデル全てに搭載しています。
日本人は昔から幅広甲高などと思われがちですが、今は少し足がやせ細っていて、昔に比べると幅自体もそこまで広くない、という傾向が多く見られます。現代に見合った細分化データに基づいた足型(ラスト)が今の『ジャパニーズマイクロフィットラスト』です。

僕らもご相談に応じて足型測定を(実店舗のみ)しているんですけども、実際にそんなに幅広の方って多くないですよね。先入観がどうしてもあって、『日本人=幅広』という風に思ってても、実際には違いますよね。

「自分は幅広です」って言ってるかもしれないですけど、実寸とってみると意外とそうではなかったって方も多いですね。足の凹凸に合わせてシューズの形状を一体化させるような設計にすることで、正しいフィット感で高いパフォーマンスを発揮できる、といったところが一番の『ジャパニーズマイクロフィットラスト』に込めたこだわりになっています。

■主軸となる『X/ACE-エックス/エース-』について

聞きたいことはいっぱいあるんですけど、2016年に向けた新しいスパイク・シューズ展開の中で、『X/ACE-エックス/エース-』について教えていただけますか?

これまであった4サイロ(『アディゼロF50』・『パティーク 11プロ』・『プレデター』・『ナイトロチャージ』)という概念を1度打ち破って、2015年7月から新しい改革を実行しているところです。その背景には特に現代のフットボールにおいて強く見られる傾向として、強いチームほど2種類のキープレーヤーが多く備わっていることが、我々が分析した結論として導き出されてました。

はい。

1つがゲームを支配して、『とにかく勝利につなげていくために全権を担っていくような、そういった特徴、気質』のプレーヤーというのが1つ。そしてもう1つが、『周りなんて一切関係ない、自分がド派手に目立って自分の力で試合を決めてやるんだ』というかなり奇抜なプレーヤー。

いいですね。

この2タイプの選手がうまく組み合わさることによって、より強いチームが今のこのフットボールにおいては、構成されていきやすいというところが根幹にあって、シューズも2大コレクションを軸に置いています。

■絶対的支配『ACE-エース-』

そしたらまず、個人的にすごく興味のある『ACE-エース-』についてもう少し具体的に教えてもらってもいいですか?

『ACE-エース-』というスパイクにおきまして、コンセプトは“全てを支配する”。ゲームであったり、チームを支配して、自分がチームを勝利に導いていくんだという気質のプレーヤーに向けたシューズでして、とにかく高いボールコントロール精度ですとか、完璧を追求したパフォーマンスを成すための靴、ということが言えます。
具体的な構成要素として、一番のポイントが合計43本になりますスタッドからなる、新しい『トータルコントロールスタッド』のアウトソールで、より多くのポイントを配置することによって、足裏でのボールコントロール精度ですとか、地面への蹴り出し、足を踏ん張った時の安定性をしっかりと向上させて、全てのプレーおいて高い精度のパフォーマンスを発揮していく機能を備えています。
加えてアッパーは、上から樹脂、EVA、合成繊維の合計3つの異素材が組み合わさった『コントロールウェブ』を搭載して、樹脂が持つ強さ、EVAのクッション性、合成繊維の形状維持性を備えることによって、そのパフォーマンスを中長期間しっかりと維持できる、そして衝撃を和らげてくれる、そういった様々な要素を一つにした構造になっています。

良いとこ全取り!ということですね。これもちなみに先ほどの『ジャパニーズマイクロフィットラスト』搭載ですか。

はい。

そして、このソールは店舗でもめちゃめちゃ評判がいいです。

ありがとうございます。

「人工芝で良いグリップをするし、土でも使えるし、グラウンドを選ばない」とか、足裏のコントロールについてテクニシャンの子は「すごいコントロールしやすい、本当に信頼性が高い、使い心地が良い」といった感想を聞いています。

検証した結果で、『1試合のボールタッチのうち10~15%は足の裏』というデータがあります。それだけ現代フットボールにおいて足の裏でしっかり精度の高いコントロールをするっていうことが重要になってきていると捉えていますので、ボールをしっかり『転がす、止める』というところの精度が追求された構造がこの43本のスタッドですね。

いいですね。

また、市場受けが良いというお話は私も本当にありがたいです。

■予測不可能『X-エックス-』

次に『X-エックス-』ですね。僕の第一印象は「もうとにかくかっこいい」でした。これについても具体的にお願いします。

そうですね。従来の3ストライプスが入っておらず、踵部分に大きなアディダスロゴが入っています。そうった『真新しさ、新鮮さ、斬新さ』が、見た目のグラフィックデザインとして入っています。
まず見た目からエックスタイプの選手たちの『マインド、エモーション』の部分を表現していこう、という狙いがあります。
アディダスのパフォーマンスロゴをかかとにドカンと大きく配置するというのも新しいデザインの取り入れ方です。

いいですね。

実際の構造では、エースに対して『X-エックス-』は、L字型のスタッドを配置してまして、これはとにかく爆発的なスピードとアジリティというところを発揮するための構造になってます。引っ掛かりがものすごく強いのでしっかりと踏ん張れる、そして一瞬の加速、あるいは方向転換につなげることができる、そういったところが考えられた構造です。

なるほど。

アッパーに関しては、一番の目玉は『テックフィットソックス』の使用になります。足首回りに弊社独自のテックフィット機能、しっかりと圧着しやすいコンプレッション機能を付けることによって、足首回りがしっかりシューズと一体化することで、こういったスタッドがもたらす激しいアジリティ、爆発的なスピードでのプレーがあったとしても、シューズと足がしっかりと食いついてくれるので、ブレを起こさずに激しいプレーにも対応できるような構造になります。

■ジュニアモデルにも日本人向けラストを初搭載

あと、ジュニアモデルに関しても新しい展開があるということですが?

ジュニアモデルに関しては、2015年の11月~12月にかけて、『メッシコレクション』、そして『ACE-エース-』、それから『X-エックス-』、という3つのシリーズから共通してアディダス史上初めて、日本人の子供たちの足型を反映させたスパイクを発売します。

具体的にどういったところが新しいのでしょうか?

先ほどお話しさせていただいるラストのように、『ジャパニーズジュニアマイクロフィットラスト』をジュニアモデルのスパイクに搭載します。足全体360°にわたって日本人ジュニアプレーヤーの足型をリアルに反映させた最新のラストです。

いいですね。

そこに大人モデルにも共通するそれぞれの特徴、『メッシコレクション』ではメッシ選手の求めるやわらかいアッパー素材による足馴染み、ボールタッチのスムーズさであったり、『ACE-エース-』の牛革アッパーの天然皮革がもたらす足馴染みやしなやかさといったところ、『X-エックス-』は、より軽量性にこだわりつつも耐久性も併せ持ったところがおすすめです。
ジュニアプレーヤーの方々には、まずは好きなモデルを1つ手に取っていただいて、ご自身の足でその履きやすさというところをぜひご体感いただきたいという風に思っています。

お店でもよくあるシーンなんですけど、本当はアディダスが履きたいんだけれども自分の足にはアディダスは合わないんだ、とマイナスの先入観を持たれている方がいらっしゃって、そういう方にもぜひ履いてほしいですよね?

そうですね。我々アディダスがグローバルブランドとして直面してきた「やっぱり海外メーカーより日本のメーカーの方が日本人の足には合うだろう」といった先入観や既成概念というものを振り払って、とにかく「アディダスのスパイクも日本人の足にしっかり合うんだ」というところを強く訴えたいです。

■シューフィッター藤丸の想いをぶつける

あと、僕自身の求めるものですが、1つ目は『安全性』、2つ目が『ワクワクする』、そして3つ目が『自分が目標としているプレーを叶えてくれる夢のようなシューズ』っていうものを作ってもらいたい。

なるほど。

さらに言うと、僕たちやユーザーの想像を超えるくらいとんでもないシューズで、実際に履いてプレーすると自分が求めるものを100%叶えてくれる、そんな『求めてるを超えちゃう』ものを待っています。

まさに、これから僕たちが追求、目指していかないといけない3つの要素だと思います。誰もがこれを待ってたんだっていう期待に120%応えつつ、「こんなシューズがありえたんだ、こんなことができるんだ、こんなスパイクって誕生しちゃうんだ」って、誰も気付けなかったところで、でもこれだったら確かにいいよね、っていうところをどこよりも早く我々が察知して、それを形にしていくことが何より企画の仕事をしている限り、やっぱり使命だと思いますので、常に追求し続けて少しでも早く形にできるように頑張ります。

よろしくお願いします。

■最後に山口さんからメッセージ

最後に今まで十分に語っていただいたと思うんですが、この対談をご覧いただいている方々に対して、熱いメッセージをお願いします。

私自身もずっとフットボールバカで25年近くに亘ってフットボールをプレーヤーとしてやってきて、今の仕事のモチベーションを高く持ち続けられるのも、過去の自分と同じ志を持った子供や学生たち、さらにプロ選手たちが一生懸命フットボールをプレーして、試合に勝ちたい、上手くなりたいという想いを持っていることが一番の根幹にありますし、レベルや環境が違えど、自分自身の夢や目標にとにかくもう真っ直ぐ向かっていただき、少しでもそれを叶えていただきたいと心から思っています。

いいですね。

「シューズを通じて、商品を通じて、その夢や目標を少しでも叶えることに貢献できるような仕事をこれからもしてゆきたい」と強く思います。シューズ企画の立場からすると、とにかく自分にとっての最高のシューズを見つけて、プレーすることが全てだと思いますので、もちろん自社・他社問わず、これだけ機能溢れる良いシューズが並んでいる世の中なので、いろいろこだわりを持って試して、自分にとっての最高の一足を少しでも早く見つけていただきたいです。

そうですね。

それで、そういった子供や学生たちがうまくなって日本代表になっていって、ゆくゆくその日本代表が世界の頂点に立つっていう日が来ることを夢見てこれからもやっていくので、その夢は絶対にぶらさずに僕はシューズ開発という仕事で頑張りますし、プレーヤーのみなさんには、少しでも早く日本が強くなって世界一になれるようなところへ、引き上げていっていただきたいという風に、偉そうで恐縮ですが、メッセージとしてお伝えしたいです。

素晴らしいですね。僕らショップの人間も、メーカー様の想いをお客様に伝えて、そしてお客様の想いをメーカー様に伝える『橋渡し』と、比較・検討できるたくさんのいい商品を集めた『正しい販売』をさせていただきますので、これからもぜひ一緒によろしくお願いします。ありがとうございました。

こちらこそよろしくお願いします。ありがとうございました。

<完>